大判例

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東京高等裁判所 平成7年(ネ)3694号 判決

横浜市中区蓑沢一九番地

控訴人

田城勇

横浜市中区山下町六九番地の一

被控訴人

株式会社テレビ神奈川

右代表者代表取締役

吉田次郎

右訴訟代理人弁護士

森英雄

鈴木質

水地啓子

田上尚志

主文

一  原判決中、

被控訴人が不正な手段をもって控訴人の営業秘密を取得、開示し被控訴人の営業に利する侵害行為に供した設備を、被控訴人は具体的に特定せよとの命令を求める部分(原判決「一 原告の求めた裁判」3項)、

損害賠償額算定のため、被控訴人は、損益計算書、貸借対照表、出入金を明らかにする商業帳簿を一九九三年四月以降現在に至るまでの分を提出しろとの命令を求める部分(同5項)及び、

立証責任を被控訴人側の負担とするとの判決を求める部分(同6項)

に係る部分を取り消す。

二  前項記載の控訴人の訴えを却下する。

三  控訴人のその余の控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴の趣旨及び主張

1  控訴人は、原審の判決の取消し及び差戻しを求める旨の判決を求めた。

2  控訴人の主張は、別紙のとおり付加するほか、原判決別紙に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  控訴の趣旨に対する答弁及び主張

被控訴人は、控訴棄却の判決を求め、控訴人の主張事実はいずれも不知又は争うと述べた。

三  証拠関係

原審における書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

四  当裁判所の判断

1  控訴人の事件調査過程における実演にかかる音楽著作権を侵害する、被控訴人の双方向通信等の手段を用いた共同不法行為の差止を控訴人は求めるとの部分(原判決「一 原告の求めた裁判」1項。以下、単に「1項」といい、他の請求についても、同様に表示する。)及び被控訴人が不正な手段をもって控訴人の営業秘密を取得、開示し被控訴人の営業に利する不正競争の差止を、不正競争防止法第三条に基づき請求する部分(2項)について

これらの請求を基礎付ける事実として控訴人が主張するところは、控訴人の独自の見方、考え方に基づくもので、到底立証できる事実とは認められないから、これらの請求を棄却すべきである。

2  被控訴人が不正な手段をもって控訴人の営業秘密を取得、開示し被控訴人の営業に利する侵害行為に供した設備を、被控訴人は具体的に特定せよとの命令を求める部分(3項)ついて

この訴えは、訴訟関係を明瞭ならしめるために裁判長の釈明権行使(民事訴訟法一二七条)の発動を求めるものと解されるところ、そのような申立てにつき判決の方式により判断を求めることはできないから、不適法として却下すべきである。

3  控訴人の加工した被控訴人の著作物に、控訴人の実名の名義の登録をしうとの中間判決を、著作権法第七五条に基づき請求する部分(4項)について

著作権法七五条に基づく登録は、著作者が自ら登録の請求をすれば足り(同法七八条一項)、同法七五条を根拠に控訴人の被控訴人に対する登録手続請求権が発生すると解することはできないから、この請求は理由がない。

4  損害賠償額算定のため、被控訴人は、損益計算書、貸借対照表、出入金を明らかにする商業帳簿を一九九三年四月以降現在に至るまでの分を提出しろとの命令を求める部分(5項)について

この訴えは、特許法一〇五条の類推適用を根拠とするものと解されるところ、そうであれば、文書提出命令(民事訴訟法三一三条以下)の方式によりその判断を求めるべきであって、判決の方式により判断を求めることは不適法である。

5  立証責任を被控訴人側の負担とするとの判決を求める部分(6項)について

この訴えが確認の利益を欠くことは明らかであるから、不適法として却下すべきである。

6  原判決の記載事項等について

控訴人は、原判決に判決書の記載事項等の不備の違法がある旨主張するけれども(別紙一項、四項、七項ないし十一項)、原判決に民事訴訟法一九一条に違反する点を見いだすことはできないかり、控訴人の右主張は理由がない。

7  原判決の釈明義務違反等について

控訴人は、原判決に釈明義務違反等の違法がある旨主張するけれども(別紙二項、三項、六項)、本件における控訴人の請求内容等にかんがみれば、原審裁判官の裁量にゆだねられた釈明権を行使するか否か、控訴人に立証の機会を与えるか否か等の判断に違法な点はない。

8  結論

以上の次第で、控訴人の訴えのうち、

被控訴人が不正な手段をもって控訴人の営業秘密を取得、開示し被控訴人の営業に利する侵害行為に供した設備を、被控訴人は具体的に特定せよとの命令を求める部分(3項)、

損害賠償額算定のため、被控訴人は、損益計算書、貸借対照表、出入金を明らかにする商業帳簿を一九九三年四月以降現在に至るまでの分を提出しろとの命令を求める部分(5項)及び

立証責任を被控訴人側の負担とするとの判決を求める部分(6項)は、不適法であるからこれを却下すべきであり、その余は失当として棄却すべきところ、これと異なる原判決の一部を主文第一項のとおり取り消して右訴えを却下し、原判決中その余の部分に関する控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙 平成六年ワ第三五三九号事件の判決に付控訴を為す旨

一、 判決の中での「事実及び理由」とあるのは、「事実及び争点」とすべきで、民事訴訟法第一九一条一項の二に違背し不当でありかつ違法である。

二、 平成七年三月十七日に原告か呼出状のとおり出廷した際に、訴外の放送局の事件(現在平成七年モ第二〇五八号訴訟救助申立中の事件)を適当なる時機をみて本件に併合する旨口頭で申し立てていた。この日、被告は出廷していなかったのだが、原告の申立の趣旨に従えば本訴訟係属中にそれが実現されるべく裁判所は判決をなす前に促すべきであり、釈明指の不行使により不当でありかっ違法である。

三、 右日時にまた、裁判所で被告らが特に原告にあてて送信してきた放送物(訴状で請求の原因が記載されているページと第一ページとしたときの、8ベージ四段落真ん中の「放送物」に相当するもの)を記録したテープを証拠として提出する旨口頭で申立てた、裁判長はそれについては検証の申立として書面で申立をなすべくいったので、それに従い平成七年六月十五日に検証の申立を書面で提出した、合せて甲二号証でテープを解説するための報告書(二)七提出した、にもかかわらず、何らの釈明もなしに検証をなさず、それによって証拠が採用されなくなった事に付また何らの釈明もなしていない、これは釈明義務違反であり不当でありかつ違法である。

四、 判決書の事実の記載の、内容的に判然とせず、また判決書において平成七年六月十八日の口頭弁論時に被告物テレビ神奈川か、原告の訴状の認否について「認めます」と発言したことが解釈されておらず判決書の「事実及び争点」において記載すべき事項であるのに記載されておらず、民事訴訟法第一九一条二項の要件を欠いており不当でありかつ違法である。

六、 平成七年三月十七日に法廷で、原告が当事者尋問を申立てる旨述べていたことは尊重されるべきで、何らの釈明もなさずに当事者尋問となさずに判決を出すことは不当であり違法である。

七、 争点の記載を事実上欠いているために、判決書としての要件を満たしておらず不当であり違法である.また、かくのごとき判決書に原告が拘束されるのは不当である.

八、 本控訴状三項で触れている磁気テーペが存在していることは、判決に影響を及ぼすべき重要なる事項であるのにもかかわらず、これに付判断を遺脱しており不当であり違法である.

九、 被告(株)テレビ神奈川の法定代理人が判決書において一人欠落しており、民事訴訟法第一九一条一項の四について不備があり訴訟手続上違法である。

十、 判決書に裁判官の捺印がなく、また他の裁判官の事由を記載した署名捺印もないにとから民事訴訟法第一九一条三項に違背し、違法である.

十一 プライバシーをはじめとする人権、著作権や知的財産権を中心とする財産権等々の権利の被害を受けている原告の立場、環境を容認あるいは確定することにつながる判決を下すためには、その立場、環境を事実として記載し、かつそれを容認あるいは確定するに足る相当の理由を付さなければ判決書として不十分であり、不当である。

以上の理由により、原告は原審の判決の取消及び差し戻しを求める。

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